昨年、このコーポレートブログでもご案内した「リスキリングJAPANカンファレンス2022」。 当日は様々な業界でご活躍されている方にご登壇いただき、熱いセッションが繰り広げられました。...
【レポート】vol.03 〜 リスキリングが国や企業、個人にもたらす幸福と成長とは?
昨年、このコーポレートブログでもご案内した「リスキリングJAPANカンファレンス2022」。
当日は様々な業界でご活躍されている方にご登壇いただき、熱いセッションが繰り広げられました。
その中でも、改めて今後のリスキリングの必要性を考える時間となった、
ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事の後藤宗明氏(以下「後藤」)と
ジャーナリストの浜田敬子氏(以下「浜田」)のオープニング・セッションの内容を
この度イベントレポートとして、計3回に渡ってご紹介いたします。今回はその「vol.03」を配信いたします。
リスキリングは「学びなおし」ではなく「1つのスキル」
浜 田
それでは改めて後藤さんに、根本的な質問なのですが、やはりリスキリングで新しく学ぶ知識というのは、デジタルに特化したものが多いのでしょうか?それとも、もう少し広い分野もあるのでしょうか?
後 藤
はい。リスキリングというのは用語でいうと一般名詞になるので、スキルを再習得することなんですけれども、今はどうしてもデジタル化というのが世界中どこででも急がれているので、「リスキリング = デジタルのスキルを身に付けること」という文脈で、今は使われていると思います。ただ、これからはデジタルだけではなくて、SDGsの文脈でも大きく活用場面が増えてくるのではないかと思います。
例えば「二酸化炭素を排出しないプロダクトを作る」そういったオペレーションを組むときには、その知識・経験が必要になるので、SDGs文脈のリスキリングとかが重要視されるのではないかと思います。あと、5〜10年くらい経っていくと、次は宇宙文脈でのリスキリングというのが出てくると思うんですよ。「スペース事業」というのは、これからの社会でどんどん各企業で取り組んでいくことになると思いますので、例えば宇宙に持って行っても壊れないプロダクトとか、宇宙で使えるようになるプロダクト、そうすると宇宙環境の中で仕事をするっていう新しい学びとスキルを身に付けなければならない。
そうするとリスキリングって根本的には、これからの世の中が変わっていくことに対して、個人がアップデートしていくための基本スキルになるんじゃないかと僕は思っています。
浜 田
リスキリングっていうそのものがスキルの一つだということですね。先ほどオズボーンさんの論文に衝撃を受けられたというお話があったのですが、実は私は、2019年12月にオズボーンさんにインタビューをしたことがあるんです。「雇用の未来」の後に書かれた「未来のスキル」という新しい論文の中で、まさにこのAI・テクノロジー時代に必要なスキルは何かって書かれていましたよね。それをもとにインタビューしたときに、すごく印象的だったのが、未来のスキルNo.1が「戦略的学習力」って言われていたんですよ。
つまり、まさに先ほど後藤さんがおっしゃられたように、時代は刻一刻と変わっていって、どんなスキルとか知識が必要になるのかというのは、次々と時代とともに変わっていくわけですよね。だからこそ、この知識だけというのではなく、常に学び続けること。しかも戦略的に学び続けることが、未来のスキルの第1位だったんですよ。それがすごく面白くて、オズボーンさん自身も「学び続けるということが一番大事ですよ」って、いろんな人に言っているとおっしゃられていました。
国家、企業レベルで考えるリスキリング
後 藤
リンダ・グラットン先生も「学び続ける」という文脈でリスキリングのことを色んな場で話して下さっていて、どんどんリスキリングの情勢が認められるようになってきましたが、「学び続ける」ということが日本の今までの働き方の中では無かったことですし、学ぶ時間というのは業務時間として算定してもらえなかったと思います。しかし、リスキリングは学ぶ時間そのものが仕事ですから、労働時間に算定されるのかという制度面も検討していかなければいけないですし、リスキリングを会社でちゃんと本格的に取り組む上では、まだまだいろんな観点での課題があるかと思います。
浜 田
例えば、Google社では、就業時間の20%は自分の好きなことをしても良いという風に、労働時間の何%を学ぶための時間に充てるというように今後は様々な企業でも変わっていくのでしょうか?
後 藤
はい、海外の成功事例と言いますか、そのリスキリング成功している会社に何度かインタビューをさせて頂いたことがあるんですが、会社の就業時間内で集合研修をやってリスキリングをやるとか、そこはやはり皆さん会社単位の取り組みということで、個人に責任を任せるようなレベルではなくて、会社の時間内できちんとリスキリングをするという制度を作って実施しているところがほとんどですね。
しかし、私が聞いている範囲ですと、正直なところまだまだ日本国内においては、就業時間内にリスキリングをしても良いという文化情勢にはたどり着いていないと思います。ちなみに、一人あたりに対する教育研究費みたいなものへの考え方も、日本はずば抜けて諸外国に比べて低いんです。特に北欧の会社のインタビューをしたときにすごく面白かったのは、「安心してクビになれる」って言ってたんですよね。これってすごいことではないですか?
北欧では、結構ドラスティックに、成長産業ではなくなった産業を潰していくという方針でやっていくので、ダメになった会社をどんどんと潰していっちゃうんですよ。その代わり、会社がなくなってクビになったというときに、成長産業に向けてのリスキリングを、国の予算で支援するんです。なので、そこでその人が仮に仕事をクビになったとしても、成長産業に向けてのリスキリングを国が主体となってやってくれるので、安心して次の仕事にいけるっていう文化なんです。
残念ながら日本ではまだまだそのレベルにまで到達できていないので、どうしても個人でリスキリングをするしか方法がないという…まだまだ個人の意識高い方が自分で学ぶっていうところに留まってしまっています。しかし、これからは企業がちゃんと企業責任として、業務時間内に学ぶということを制度化しなくてはいけないかと私は思います。逆に、それができなければ日本企業の本質的なリスキリングは進まないと思います。
浜 田
なるほど。先ほどの北欧の話で言うと、学ぶ目的がはっきりしてますよね。次の新しい仕事に就くために足りないものを学ぶとなると、やっぱり次の仕事へ向けて一生懸命やりますよね。本人のこれからの生活がかかってきますからね。
日本だと、何のために学ぶのか、その動機づけが個人個人に委ねられていたり、未来のカタチが見えないままになんとなく当てずっぽうというか、こっちかなあっちかなというように、個人でその矛先や未来予想図をも考えながら学ばなければいけないわけですよね。だから、未来予想が比較的見えている方にとってはすごく良いと思うんですが、キャリア迷子みたいな方にとっては、たくさん資格を取ったりして学んでいるけども、なかなかそれが実生活や仕事に活かされていない方も大勢いて、時間やお金を有効に使えていないなぁという方も、実際には多くいますよね。
だから、きちんとした産業政策とか、企業の中での方向づけみたいなものがないと、本当に個人の方の時間がただ単に無駄になってしまうんだろうなと、改めて聞いて思いました。
後 藤
会社の命令で転勤を受けて、言われた部署に異動することを受け入れろっていうのが、今までの日本社会における企業文化の根底だったと思うんです。その中で自分で考えて自分で学んで行きたいところに行くっていうのを、今から急に推奨されても、きっと「そんなのできないよ」っていうのが、やっぱり私の同世代なんかの意見だったりするところもあって、国内における企業文化の改革というのも、これからますます必要になるんじゃないかと思います。
まずは生活にデジタル機器を導入してみる
※ イベント中の資料を提示しながらお話される後藤さん。生活のデジタル化への第一歩として取り上げた機器事例。
浜 田
日本はまだまだ過渡期で、たぶん企業や国が政策としてやるには、もしかしたら数年かかってしまうのかもしれない。その間に、例えば40〜50代の人たちはどんどん不安が大きくなってしまう。この期間はある程度個人がリスキリングというのを意図的にやっていかなければいけないかもしれないんですが、後藤さんは、どういうことを心がけた方が良いと思われますか?
後 藤
特に意識が高く、どんどんとキャリアアップしていく方ならいいのですが、おそらくこのリスキリングのメインターゲットとなる方々の共通点は、根本的にデジタルが嫌い・苦手という方がすごく多いんですよね。そこで僕がいつもオススメしているのが、まず「日常生活のデジタル化から始めましょう」ということです。
例えばスマートスピーカー、アレクサって皆知っていると思うのですが、でも実際にアレクサを使ってますか?というと、皆さん目を逸らすんですよね。例えばお掃除ロボットのルンバとかも、わかってはいるものの掃除は手でやっちゃうとか、体重計のスマートスケールなんか、もはやセンサーでいろんなものを測れるわけです。例えばスマートスピーカーの場合は、音声検索で AI を使って指示するわけですよね。こういうのって実際に仕事にも活かせますし、お掃除ロボットはアプリと連動するIoTのプロダクトなので、どういうことがセンサーで出来るのかということがよく分かるようになるのです。スマートスケールの場合は、センサーを使ってどんなものがデータで取れるのかということが分かるようになります。
だからこそ、デジタルが苦手な方は、まず「知ったかぶり」から「使ってみる」ことをやってみると、デジタル分野でのリスキリングの第一歩を踏み出せるのではないかと思っています。
浜 田
なるほど!日常生活でデジタルアレルギーをなくしていくことは、明日からでもすぐに出来そうですよね。中高年の人材というと、どうしても男性が思い浮かびますが、実はずっと働き続けている女性もいて、女性もやはりすごく悩んでいるんです。特に企業でなかなか管理職に就けずに、長い間非常にサポーティブな仕事してきたという人たちが、自分がやってきたスキルが転職しても活きるのかということをすごく不安に思っているんです。しかし、例えば総務や人事、広報の仕事って、どこの企業でも必要ですし、+ デジタルスキルがそこにオンできると、その蓄積されたスキルは無駄にはならないですよね。
後 藤
ちなみに、とある家庭での話ではありますが、生活をデジタル化しましょうということで、家族会議でルンバの話をしたときに、却下になったという話がありました。それはなぜかというと「掃除をすることそのものが美徳なんだから手を抜くな」という、男性ご主人の意見があったからだそうです。このように、デジタル化が進まないことの1つの理由に「今までの価値観が前提にある」これがすごく多いんですよね。僕はこの話は全くリスキリングにおいても同じだと思っています。例えばリモートでも全然働けるのにも関わらず、絶対に出社しないとダメだとか、管理職だとリモートは不安だとか。スキルだけではなく、価値観やマインドセットの転換も同時に必要であるということですね。つまりは、その既存固定概念を時代に合わせて変えられる経営者でないと、全社ハッピーなリスキリング推進にはなかなか辿り着かないんじゃないかなと思います。
浜 田
結果的に、リスキリングの重要性を認識するためには、例えば新しい自社の成長領域はなんだということをきちんと考えなければならないし、もっと言えば普段の仕事も DX をしなければいけないということで、企業にとっても未来に生き残る戦略になるわけですよね?
後 藤
そのとおりだと思います。実は経営者の方たちの中でも、今回のコロナのように、デジタル化をしなければ産業や仕事が傾くことがありますが、一方でリスキリングやデジタル化が進んでいくことによって、優秀な人材が出て行ってしまうから、あえてリスキリングをしない というような本末転倒な話があるんですよ。リスキリングだけではなくて給与の問題だとか、雇用の流動化の問題だとか、いろんな問題が実はリスキリングに関わるところで複合的に絡んでいるわけですよね。
しかし、優秀な人材ほど、投資をしてもらえない会社になんか残らないですよね?ちなみに、アメリカで昨今ものすごく大きなトレンドになっている「The Great Resignation (大退職時代) 」を、僕なりにかなり調べたんですが、辞める理由の第1位が「会社が成長機会を与えてくれないから」っていうものでした。ダントツでこれが大きいんですよ!やはりこれは日本も同じ波が来るなと思いまして、個人が成長する機会をリスキリングによって与えられない会社というのは、やはり優秀な人からどんどん見放されていってしまうんではないかと思います。
浜 田
リスキリングということを通して、自分と会社の関係みたいなものも見つめ直すきっかけになりますね。
後 藤
そうですね、特にこのコロナの2年間の中で、社会も含めて個人と社会の関係を見直すってというのは、ものすごくあったんじゃないかと思います。裏を返すと、きちんと従業員個人の成長や給与のアップも含めて支援できたり、リスキリングする機会を与えられる会社は、逆に優秀な人材が集まってくることになると僕は思います。
いよいよこれから日本でも始まるリスキリング改革
浜 田
最後に、少し大きな視点で伺いたいのですが、先ほどからリスキリングというのは国も政策的に誘導していく必要があるというお話がありましたが、行政や官僚の方々とかとお話されることはありますか?
後 藤
はい。どこまでここでお話していいかというのがありますが、かなり以前から日本でリスキリングを制度化していくために、提言活動みたいなのは行ってきました。実は、昨年デジタル庁の皆様が非常にリスキリングを重要視してくださっていて、この間、平井大臣にリスキリングの施策の提言をさせて頂いたんですね。今、私が分かっている範囲では、各省庁ごとにリスキリングはすごく重要だということ自体はご理解いただいていて、各省庁ごとにどうやってリスキリングをやるのかについて、取り組まれていらっしゃいます。
浜 田
なるほど!そもそも霞が関の方々が、自らリスキリングしたいのですね…!私は11月から12月にかけてデジタル庁の取材をして連載をしたんですけど、あそこは600人の職員の内200人の民間の方が働いているので、各省庁や自治体からデジタルのスキルを学ぶだけではなくて、ビジネスや民間の感覚も学ぶ方がいらっしゃったりと、2重にリスキリングされているなと思いました。
後 藤
まさに「セクター間の多様性」っていうものですが、やはり成功しているリスキリングの業界っていうのは3者契約で推進されていて、労働組合・企業・国家が3者契約を結んでリスキリングプロジェクトを実行していくんです。なので、そこが日本でうまくできるのかどうかが分からない部分があるのですが…。日本もこれからは労働組合や連合とか、そういったところのポジションも非常に重要になってきますね。
そして、もう1つのキーとなるのは、やはり業界団体だと思います。各業界ごとに見ている未来の段階が違うわけですよね。なので、業界ごとに必要になるスキルというのもバラバラなので、業界団体のリスキリングへの取り組みっていうのが1つのキーになるかと思っています。
浜 田
そうですね、もはや個人のみならず、国も総力をあげてこのリスキリングに取り組んでいく時期ということが非常によくわかりました。多岐に渡ってお話をして頂きましたが、これからのリスキリングの発展がますます楽しみですね!引き続き情報キャッチアップをしながら、私自身も一個人として何ができるだろうと考えてみたいと思います。
本日はどうもありがとうございました!
Fin