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【レポート】vol.02 〜 リスキリングが国や企業、個人にもたらす幸福と成長とは?

昨年、このコーポレートブログでもご案内した「リスキリングJAPANカンファレンス2022」
当日は様々な業界でご活躍されている方にご登壇いただき、熱いセッションが繰り広げられました。
その中でも、改めて今後のリスキリングの必要性を考える時間となった、
ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事の後藤宗明氏(以下「後藤」)と
ジャーナリストの浜田敬子氏(以下「浜田」)のオープニング・セッションの内容を
この度イベントレポートとして、計3回に渡ってご紹介いたします。今回はその「vol.02」を配信いたします。

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   日本でリスキリングが進まなかった要因とは

 

  浜 田  
後藤さんが「リスキリングの必要性が、ここ数年で世界的にどんどん認識されるようになった」とお話された点ですが、一方では日本はまだまだ遅れてるというお話も先ほどありました。私としては、まさに日本こそ中高年世代のリスキリングが必要じゃないかなと思うのですが、なぜ日本ではリスキリングがなかなか進まなかったのでしょうか?


  後 藤  
デジタルで何ができるのかということを、長きに渡って丸投げしてしまうといった文化背景があったからだと思います。それで結局、アメリカや中国、シンガポールなどのデジタル化が進んでいる国に対して、日本ではデジタル化そのものをあまり推進してこなかったんですよね。そこに大きい理由が繋がっていると感じます。

 

  浜 田  
なるほど。意志決定権のある方たちが、自分が特段取り組んでいないデジタル化に関して、本当の意味での必要性を、まだ実感できていなかったということですよね。

  後 藤  
コロナになってデジタル化が出遅れていることをようやく各社意識しはじめて、実際に業績が急落した会社もたくさんあって、政府も含めて急に舵を切りはじめたのが現在といったところでしょうか。

  浜 田  
実は今年のはじめに、私はEV(電気自動車関係)の規格で、自動車産業がこれからどうなるのか取材したんです。そこで、日本ではいわゆる「エンジンの車から電気自動車になるときに雇用が失われる」といった議論がなされていました。

では、なぜヨーロッパやアメリカではEVシフトが進んでいるのか。それを専門家に取材したときに、もちろん経営層も必要性を認識してはいましたが、実は「労働組合からEVシフトの要求があった」という面白い回答がありました。どちらかといえば、働き手の方が、このままでは自分たちのスキルや技術が使えなくなって、どんどん陳腐化してしまうという危機感が労働組合にあったようです。アメリカでは、バイデン政権になってから、政府とメーカーと労働組合の3者でEVシフトを合意しているんですが、やっぱり働き手側の危機感というのが結構大きいんだなと。
日本の場合、働いている側での意識的な広まり等はどうでしょうか?

 

  後 藤  
はい、実は日本国内におけるリスキリングの導入が出遅れた原因に、国の財源の問題が挙げられまして、さらにもう一つはデジタルに対しての個人の認識の違いがあるのではないかと思います。

例えば、グローバル化という声があったときに、日本人は「あー英語やらなきゃ」と思うんですよね。中学・高校・大学に英語の授業はありましたが、グローバル化と考えた時に「自分は英語がしゃべれない」と謙虚に思う。ところが、ことデジタルに関しては「デジタルやらなきゃ」とか「私はデジタルできない」というような、共通した問題意識の範囲まで日本全体がきているのか?と考えると、やはりそうではない。例えば TOEIC 735点以上取らないとマネージャーになれないよ とか、同じようなレベルでの危機意識が各々の個人レベルにあるかというと、残念ながら今はまだ無いと思うんです。

なので、先ほど浜田さんがおっしゃられた通り、国・経営者だけではなく、労働者側の個人にも課題があるかなと思います。

 

  浜 田  
ちなみに、それは世代によって危機感の濃度や温度差などの違いはありますか?

  後 藤  
ありますね…。自分の苦手なことをわざわざ学習することに対して、どうしても「やりたくない」という反対のエネルギーが働いてしまうんですよね。良くも悪くもですが、日本では特に何かを深く学ばなくても、新卒で仕事に就けたり、その会社に長くいれば勝手に昇給・昇格できたという、終身雇用の文化背景があります。しかし一方で、外資系の企業では、スキルが陳腐化して部署が要らなくなったら、呆気なくばっさりレイオフされてしまう。

日本では、その危機意識が比較的薄いので、自分みずからアップデートしていき、そして学んだ人が昇給・昇格していくという文化がなかったんです。もちろん雇用が守られること自体は大変すばらしい日本らしさがそこにはあるんですけどね。

 

  浜 田  
今、日本の人事の世界では「ジョブ型雇用」というキーワードが出てきています。まさに外資系と同じように、新卒から一括採用して年功序列というものを止めていきましょう というお話も出てきています。しかし私は、このジョブ型雇用を日本に取り入れたときに、学んでいる人と学ばない人の差がすごく激しいなと思っています。仮に何も学ばないでその企業に特化したスキルだけを身に付けてきた人たちが、このジョブ型雇用にきちんと対応できるのだろうか?という疑問さえ抱いてしまいます。

 

  後 藤  
そうですね、この辺の話に関しては、やはり色々な所説・議論があるんですけども、いわゆる日本で言われているジョブ型雇用というのが、海外のレベルまで厳しいジョブ型雇用なのかというとそうではなく、日本はやはり「雇用を守った上でのジョブ型雇用」いわゆる「日本型ジョブ型雇用」のような着地を現状ではしています。そして、雇用を守っていくと決めたからには、労働力をちゃんとデジタル時代に合わせていかなければならないので、リスキリングをする必要があると。こういった流れではないかと思います。

リスキリングが日本企業の方々に注目されるようになったのは、日本の雇用システム、メンバーシップ型雇用のスタートからも、すごく影響があるのではないかと思います。

 

   企業、そして日本全体で考えるべき「将来のスキル」とは


  浜 田   
後藤さんがご自身のnoteで「一般社団法人を立ち上げたら150社くらいの日本企業の人事の方から問い合わせがあった」と書いてらっしゃいましたが、皆さんリスキリングの必要性を感じた上で「どうしたらいいですか?」というようなご相談でしたか?

 

  後 藤  
はい、そもそもリスキリングをどうやって進めるのかというところで、リスキリングの和訳が「学びなおし」という意味で充てられているんですよね。しかし、「リスキリング = 学びなおし」という解釈は少し間違っていて、リスキリングの中でいう学び直しの要素って、実は半分でしかないんです。というのも、学んだスキルを実際に実践して・経験を積んで・その仕事そのものが変わる、というような、その分野の第一人者になるというところまでが、リスキリングの本質 なんですよね。

なので、よく経営者の方と話していると「学んだだけで仕事ができると思うなよ!」みたいな話があったりするんですけど、学んだことをちゃんと実践をする、そしてその仕事そのものが変わるという、ここまで全てがリスキリングなんです。

しかし、日本ではどうしても「学びなおし」という文脈でリスキリングを捉えられているので、学び方に関する議論や、学びたい or 学びたくない、という2軸での両極端な議論ばかりが増えてしまっているんですが、実はそのあとに仕事そのものが変わっていくところまでがリスキリングなので、まだまだ捉え方に関してもムラが多いのが事実です。

 

  浜 田  
それって、例えば企業おいては「今こういった事業をしていますが、なかなか成長しないので新規事業を作ります」という時に、リスキリングをしてもらいながら新たなジョブトランジションをするということですかね。それを企業内だけではなく、国全体として成長産業にどうやって雇用を移していけるのかをセットで考えるということなんですかね?個人の学び直しだけではなくて、大きな産業構造や企業の中の事業の組み換え、もっと言えば経営戦略ということとすごくマッチしている話だと感じるのですが。

 

  後 藤  
まさに仰る通りです。お問い合わせ頂いている内容も「リスキリングとリカレント教育とは何が違うんだ」とか「リスキリングを企業で導入していくのにはどうしたらいいのか」といった内容が多いのですが、半分以上がベテラン中高年社員の方々の会社で、新規事業をやるにしても、そっちに舵を切るのが難しい社員たちを、これからどう導けばよいのかというお問い合わせが、実はものすごく多いんです。

 

  浜 田  
なるほど。つまり、先ほどオープニングでもおっしゃられた「余剰人材をどうやって活用すればいいのか」というところで留まっている企業が多いということですね。例えばうちの会社は、こんな事業をしていくんだ!ということが無いと、何のためにリスキリングするのかすら、なかなか社内にブレイクダウンしていかないというのも課題なのですね。

 

  後 藤  
そのとおりです。英語で 「Future skill(将来のスキル)」という表現があるんですけど、リスキリングの中ですごく大事なのが、その会社にとってどういった将来のスキルを身に付けるのが良いのか というのを、ちゃんと策定をしなくてはいけないんですね。将来必要となるスキルを策定する=将来の事業の方向性をちゃんと策定していることが大事なんですよね。

なので、例えば「AIを使って何か新しいことをやろう」というような指示が、急に経営者から飛んできたとします。もちろん、何もやらないよりは何かやった方がいいとは思いますが、AIを使ってこの会社の事業が、そもそもどうなっていくのかということをきちんとブレイクダウンをして提案していくことが大変重要ではないかと思います。具体的に未来図が描けていると、たとえば従業員のAさんには機械学習専門のエンジニアになってもらおう!だったり、BさんにはAIのプロジェクトを企画から担当してもらおう!といったように、事業に連動した形でスキルがどんどん具体的にブレイクダウンしていくわけですよね。

 

  浜 田  
なるほど。でも今だに、闇雲に「デジタルの資格取れ」とかっていうの、あると思うんですよね。

 

  後 藤  
はい、今まさにその状態になっていて、突然上司から「とりあえずオンラインの講座受けてきて」といった形で指示される。それではリスキリングどころか、いやいや何かを学ばさせられるだけで、時間とお金だけがなくなってしまいますから、非常にもったいないですよね。

もう一つ、日本ですごく大事なのが「キャリア自立」という言葉が最近重要視されてきたことです。自分で自分のキャリアをこれから作っていきましょう!ということですね。

実はリスキリングというのは、会社事業の方向性が変わっていくことに伴って労働移転をしていくことになっているので、リスキリングの実責任者というのは主に「企業」にあるんです。しかし、これからの時代は「キャリアを自分で作っていきましょう」という流れに転換しつつあるので、実際に会社が行ってほしい方向性と、個人がやりたい方向性が、今後大きくねじれてくる可能性があるんです。

そこで個人としては、
①:会社のやってほしいことをやる = 会社に残る
②:自分のやりたいことをするために会社を出る
という2択のどちらかを選ぶということが、これからの
個人の選択として求められてくるんじゃないかと思います。

 

  浜 田  
これまでは、いわゆる「学びなおし」というのは、個人の自己責任っぽい感じで言われてきましたよね。まあ「キャリア自立」という文脈も同じだとは思うんですけども。もちろん、それで外に転職していくという道もあれば、会社側が企業戦略や経営の一環として、今後どんな事業を伸ばしていくのか、そのためにどういう人材が必要なのかを考えて再教育をしていく。そして、そこに乗っかるという人も良しというわけですね。

 

  後 藤  
仰る通りです。

先ほど浜田さんがEVのお話をされていましたが、これまで自動車業界では、やはりエンジン車がメインのエンジニアを多く守っていくことが大きかったと思うのですが、ある会社さんでは結構大きな早期退職制度を運用したんですよ。特別に非公式で中のお話を聞いたのですが、会社としては「君はどうしたい?」と聞いても「自分はEVはやりたくない」「あんなものは車じゃない」と、これまでエンジン車をメインにしていたエンジニアの多くが、EVには行かないという選択肢をとっていたそうです。「自分のキャリアは自分で作る  =  自分はEVをやらない」といって出ていった方がたくさんいたそうで。

この事例のように、これからの社会、会社と個人各々にどうする?といった対話が、ますます重要になってくるのではないかと思います。

 

  浜 田  
そうですね。特に今仰った自動車産業は、これから本当に大きく組み替えていかなければならない業界なので、これまでの技術が全部生かせられるとは限らない。でもその技術が、また何か別の所で活きるのかということが、企業内だけではなかなか解決しづらい問題になっていますね。

 

  後 藤  
自動車業界ですと、オーストラリアの場合は、エンジンの整備士の方々が、このままだと仕事がなくなるということで、国が主体となってEVの整備士になれるようにちゃんとリスキリングをやっているんですよね。

そういった形で、一企業の取り組みといった単位でやっていくには非常に限界があるので、政策や業界団体全体でリスキリングをする、という動きが海外では主流になっています。

 

  浜 田  
そうなんですね。日本にもそういった形で浸透していくと良いですよね。

 

vol.03 へ続く…