前編ではChatwork社が取り組むSDGsに向けた基本姿勢や取り組み方、人員体制などについて具体的にお話を伺いました。 本編ではその「後編」として、さらに目標に対して深く掘り下げて伺っていきます。...
【インタビュー】前編|Chatwork 山本社長に聞く、事業に直結したSDGsとは?
昨今ではNHK Eテレの子ども向け番組でも多く取り上げられている「SDGs」。我々シェアエックス株式会社でも、昨年11月に改めてこのSDGsの目標の中で、事業を通じて取り組める目標を整理し、これから積極的に取り組んでいきたいところですが、実際にはどんな体制で何からすべきなのか、頭を悩ませることもしばしば・・・。
今回は、すでに会社全体で戦略的にSDGsへの取り組みを実行されている、Chatwork株式会社 代表取締役 CEO 山本正喜 氏 に、その取組み背景や組織体制について伺いました。
※ 写真は Chatworkコーポレートサイト から引用: https://corp.chatwork.com/ja/mission/
会社のMISSIONが、まさにSDGsに直結していた
ー この度は弊社のインタビューにご対応いただき、ありがとうございます。
では早速、Chatwork社でのSDGsの取り組みについて、導入背景なども含めて教えていただけますか?
はい、今でこそビジネスにおいてチャットツールが使われることが「当たり前」になってきましたが、当社は約10年前位から、この「Chatwork」というビジネスチャット事業を中心に行っておりまして、メールよりも効率的なコミュニケーションツールとして展開していきました。
時代とともにビジネスチャットが次第に一般化するに従って、単に「生産性や業務効率を上げること」のみならず、そもそもの根底課題にある「働き方を変革する」という部分にフォーカスするようになりました。「ビジネスチャットを通して、こういう世界観を作ってる会社です」という何かステータスみたいなものを、大きく訴求する必要性が出てきたんです。その流れで、私が代表取締役 CEOに就任をした約3年前、それまではCTOとして技術責任者を担っていたのですが、私がCEOになったタイミングで会社全体の「MISSION」アップデートを大々的に行いました。
『働くをもっと楽しく、創造的に』これが新しく掲げた「MISSION」で、これから更に事業を通して社会に還元・実現していきたいと思っています。
※ 写真は Chatworkコーポレートサイト から引用
上場をきっかけに一般の株主の方々にのご意見なども社内にたくさん取り入れて、さらに外部(パブリック・オーディエンス)からの見え方なども含め、今まで以上に「社会に対する責任を背負う」という部分を強く意識し始めたと同時に、会社・組織として、Chatworkはどのような未来に向かって進もうとしているのか等を、様々な場面でお話する説明責任みたいなものも同時に発生してきたので、今回のテーマとなっているSDGsについて社内で改めて議論したというよりも、まずは私たちの「存在意義そのもの」から見つめ直していったんです。そして、結果的にそのミッションで掲げた内容が、まさしくSDGsの第8番と内容がイコールだった!といった、そんな着地ストーリーでした。SDGs 18項目には様々な社会課題が挙げられていますが、中でも第8番《働きがいも経済成長も》という内容とまさにイコールだったので、こちらがビックリしたくらいです。
しかし我々は、あくまでもSDGsの目標を達成するために事業を行うわけではありません。軸として常にあるのは、私たちの事業を通じて社会に価値を提供し、世の中全体の変革・アップデートを果たすことが 使命 = 「MISSION」 ですので、まずは事業をさらにより良いものにしていくことは今後も変わりないですし、その先に結果的に良い未来が実現できることだと信じています。近い将来では、事業以外にも寄付的な取り組みも行っていく可能性は充分にあるのですが、まずは事業を通して社会全体の働き方改善にコミットする、その方向性でSDGsの目標8番も同時に達成するといったイメージで、現在社内で取り組んでいます。
ESG投資というトレンドに紐付いた社会的意義を再整理する
ー SDGsへの取り組みを本格化するにあたって、何か決定事項のようなものはありましたか?
我々のような上場企業だと、特に事業に直結しているのが「ESG(Environment Social Governance の略)」の文脈です。
すでに経営層の方はご存知かと思うのですが、ヨーロッパを中心に約5年前位から「ESG領域で一定の活動実績のある企業にしか投資しない」という機関投資家のトレンド動向がありまして、アメリカも最初は少し懐疑的だったものの最近では徐々にその見方も変わってきつつあります。そして日本国内においてもGPIF(Government Pension Investment Fund の略)といわれる年金機構や、最大の機関投資家がこのESGを重要視する傾向にあるのが昨今です。各企業のファンドマネージャーが、このESGに関するプレッシャーをLP側(Limited Partnershipの略)から受けるといった状況になっているので、我々株式発行者側に対しても「ESGに関する情報開示をしっかりしてください」と求められるようになり、いよいよ先んじて大企業が中心となって、このSDGsをちゃんと理解し取り組んでいくべき状況になったのが、各企業における導入背景ではないでしょうか。弊社もまさに同じ流れです。
我々はインターネットをベースにした事業会社なので、環境とか資源といった文脈でいえばECOな企業ではあるのですが、そんなIT企業にもおいてもESGでの実績やSDGsの目線観という部分は、社会から見た時に重要な指標になっているなと強く感じますし、高度成長期における資本主義の考え方から変わってきた現代において、単なる事業成長のみならず、それに付随した社会的意義をしっかりと求められる時代になったので、いわゆる「資本主義2.0」みたいな、良い世の中の流れになってきたんだなと、私自身も実感しているところです。
※《参考》ESG投資とは? 経済産業省のページから引用
従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)社会(Social)ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のことを指します。特に、年金基金など大きな資産を超長期で運用する機関投資家を中心に、企業経営のサステナビリティを評価するという概念が普及し、気候変動などを念頭においた長期的なリスクマネジメントや、企業の新たな収益創出の機会(オポチュニティ)を評価するベンチマークとして、国連持続可能な開発目標(SDGs)と合わせて注目されています。日本においても、投資にESGの視点を組み入れることなどを原則として掲げる国連責任投資原則(PRI)に、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年に署名したことを受け、ESG投資が広がっています。
自社のコアは自社で作る。IR経営企画部・BX部・人事部の総合力で戦略を描く
ー 実際にSDGsやESG戦略に取り組む専門部署やチームなどが社内にあるのでしょうか?
ESGやSDGsという意味では、主にIRやPRといった広報の分脈が強いので、社内のチーム体制としては IRチームや経営企画室が主に投資家向けの情報開示の担当をしていて、PR広報やブランディングという観点だと、BX部(ブランドエクスペリエンス部)という部門が担当しています。
ここで少し付け加えますと、弊社にはいわゆる「広報」という部署は無く、ユーザーや社会に対してどういった見せ方をしていくのかという文脈については、すべてこのBX部が担当しているんです。なので、会社全体の取り組みをいかに情報開示・発信していくのかは、このIRとBXが足並みを揃えて推進しているといった状況です。
他の観点からみたSDGs関連部署であれば、人事も深く絡んでいます。弊社は主に第8番《働きがいも経済成長も》という目標をメインに設定しているところから、社内の取り組みや組織改革、制度設計みたいな分野にも取り組む必要があるので、人事部署も大きくSDGsに絡んでいます。
したがって、このESG・SDGs戦略みたいな文脈でいえば、複数の部署を横断するような形のプロジェクトチームを作って、全体のESG戦略や3〜5年計画くらいとなる中長期計画、スパンロードマップみたいなものを作って順応しています。
また、弊社では主に会社にとってコアとなる部分は、外部人材を入れることはせず、社内人材のみで作りあげるという文化があります。それには理由があり、自分たちの未来に込めた想いを具現化するには、やはり当事者意識を強く持てる仲間同士での高めあいが重要であると考えるからです。まずは自分たちだけで、ある一定のところまでのワーディングや座組開発を進める。社内全体が納得の行くコアを考え、見つめ直し、アップデートしていく。そして、それらをさらに磨きをかける段階で、外部のコンサルタントなどを一部起用するといったケースもあります。
このESG・SDGs分野でも同じで、まずは社内メンバーだけで一体となってメッセージ性やステートメント、方向性の見せ方などをどんどんとアップデートしていきました。そして今、いよいよ次のステップとして、さらに磨き込みをしていく段階に突入するので、近いうちには外部の方にも入っていただくことを現在検討しています。
社内に限らず、社外や社会全体に対しても、どんどんと良いアップデートをしていけるのは大変楽しみなことですし、事業・ミッションを通じて今後もさらに発展させていけたらと思っています。
次回、「後編」につづく・・・