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【インタビュー】後編|Chatwork 山本社長に聞く、事業に直結したSDGsとは?

前編ではChatwork社が取り組むSDGsに向けた基本姿勢や取り組み方、人員体制などについて具体的にお話を伺いました。
本編ではその「後編」として、さらに目標に対して深く掘り下げて伺っていきます。

今回も引き続き、すでに戦略的にSDGsへの取り組みを実行されている、Chatwork株式会社 代表取締役 CEO 山本正喜 に、お話を伺いました。


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※ 写真はオンラインインタビューを実施した当日の様子。かれこれ10年来の仲ということもあり、深堀りしてお話を伺うことができました。



   一人でも多くの人に、楽しく、創造的な仕事に就いてもらいたい


では早速、前編の続きになりますが、
  SDGs18項目の中でも、なぜChatwork社では「No.08」をメインに設定されているのかを教えて下さい。


Chatworkの「MISSION」である『働くをもっと楽しく、創造的に』これは元々 私が作ったんです。2000年の当時、私は学生をしながら起業したところからスタートしました。ちょうど日本にインターネットが来たくらいの時代だったので、当時はとてもワクワクした時代でした。その当時、まずは簡単なホームページを作ってみたら、なぜかたくさんのアクセスが集まり、周りの友人たちから「どうやって作っているのか教えて」と言われることが増え、次第にそれが仕事になり出したという流れでした。最初はお小遣い稼ぎから始まったものの、いつの間にか仕事として起動に乗り始め、法人化したといった経緯です。当時はその現体験がすごく面白くてたまらなかったですし、それこそ毎日毎晩、寝る間も惜しんでソースコードを書きまくっていたというか、とにかく楽しくって寝食を忘れて働いていました。

しかし、そんな私でも親からは「仕事っていうのは、他の人がやりたくないことをやって、お金がもらえる、その我慢料が仕事なんだよ」と教えてこられました。実際に親世代ではそういう時代でしたしね。しかし自分としてはとにかく仕事をすることが楽しかったので、「我慢料 = 仕事の報酬 」という実感を持つことはできませんでした。でも実際に周りの知人間では、現実的に「お金のためだけに働いている人」が結構多かったことも事実です。これって、もし仮に20代から働き始めて 60代、70代位まで働くものだとすると、人生のうちの大半を我慢やお金をメインに過ごしていくことになる。もし「働く」という時間そのものが「苦痛」になっていたとしたら、人生そのものがとても辛くしんどい状態に陥ってしまうと思いますし、それって長い人生の中で大きな損失であると思うんです。実際に弊社の事例でいうと、創造的な仕事をベースに充実した時間を過ごしているメンバーには、共通して何かしら個々における目標設定や自己成長などがあり、そこから得られる喜びや達成感、自分自身で人生を楽しみながら、結果的にどんどん社会を豊かにすることに繋がっていたりもする。逆に、何か仕事をする上で我慢をしながらお金のためだけに働いて、仕事が終わったら自分の趣味の時間で発散するんだという人もいますが、何かしらマイナスのスパイラルとなる時間が発生するので、それがもし20年・30年と積み重なってくると、必ずどこかでストレスや無理・弊害が出てきますし、パフォーマンスという意味においても、社会に対するインパクトって、結構大きな違いになってくるのではないかと思うんです。

だから我々は、お金のためだけに働くのではなく、一人でも多くの人が楽しく創造的な仕事ができる環境を構築し、ワクワクした人生を送っていける人口を増やしていきたい というのが「MISSION」の根底です。その「MISSION」に直結していたのが、このNo.08の目標だったというわけですね。



   メールからチャットへ。ビジネスチャットがもたらす「働き方改革の根底」とは?


「MISSION」
 = SDGs No.08 であり、それらを事業を通じて達成するということですが
  Chatwork社では今後新しい事業への取り組みなどは検討されているのでしょうか?

もちろんです。Chatwork だからと言って、よく「チャットの事業しかやらないんですか?」と聞かれるのですが、全くそのつもりはありません。あくまでも我々の「MISSION」を実現するにあたり、ビジネスチャットが一番効率が良いからメイン事業として取り組んでいる という、それだけなんです。

というのも、ビジネスコミュニケーションをメールからチャットに変えると、本当に働き方って激的に変わるんですよね。メールだと、よくある謎の冒頭分「お世話になっております」だとか、たとえ相手と親密な関係性であっても、なぜか「◯◯様」から始まる硬い文章になりがちで、不要な内容が多くて読む側にも時間が取られますし、形式的な文面の背景にあるコンテキストには、特に意味がないものも多かったりすると思います。きっとほとんどの方が一度は感じたことがあるのではないでしょうか?

しかし、ビジネスにおいてチャットがメインコミュニケーションになってくると、まず気軽にやりとりすることが盛んになり、いちいち「お世話になっております」などの謎の冒頭文を書く必要さえなくなります。よりカジュアルで的確
なコミュニケーションを各々で気軽に取れるようになり、結果的にとてもフラットな組織や人間関係になって、本質的な会話や議論もしやすくなるので、結果的に会社のカルチャーそのものもアップデートしてしまうという大変良い効果が生まれます。実際に弊社でも、これまでにこの大きな企業文化の変化そのものを実感してきましたし、お客様を通してもたくさんの好事例を頂いているので、大きな社会的インパクトを生み出せるツールになってきていると思っています。なので当社では、まずこの「ビジネスチャットを社会の当たり前にすること」に注力しているわけです。

しかし、それはあくまでも「今時点」での話です。ビジネスチャットもメールと同じで、いずれは確実にコモディティ化していき、世の中の8割くらいが導入されれば「当たり前になること」が達成できると思うので、その先にはミッションの実現により近しいような、新たなアプリケーションの開発であったり新規プロダクトをリリースしていくんだろうなと思います。

我々は、こうして一貫して「MISSION」実現を追求し続けていくことが『働くをもっと楽しく、創造的に』という世界観に対してピュア取り組んでいる理由です。


なるほど。たとえば近い未来での何か具体的な目標などはあるのでしょうか?

まず具体的な目標としては、2024年までに「中小企業ビジネスチャットNo.1」を、当面の分かりやすい目標にしています。中小企業において、まずはデファクトなビジネスチャットツールになるんだ というところが、我々が初めに登るべき山ですね。

長期ビジョンでいうと、やはり「ビジネス版スーパーアプリ」という構想ですね。

スーパーアプリというのは、中国の WeChat とか Alipay などが挙げられますが、1国民に対して1ID必ずインストールされているようなもので、もはや生活必需品のレベルに達しているようなものを指します。私たちはビジネスの現場において、このスーパーアプリのところまでいけたらと考えています。中小企業の方々がコアビジネスに集中できる環境を作れたら、きっとコミュニケーションの本質的な形が変わり、組織そのものが変わり、働き方全体も変わる。私たちが目指している世界観は、まさに「中小企業にとっての経営インフラになる」こと。そこまで拡大していけたらと思っています。

昨今では特にDX分野の課題が大きいと思いますが、中小企業におけるDXは、広大な負の部分がまだまだたくさん残っていて、課題も山積しています。私たちのツールだと、たとえばビジネスチャットツールが、中小企業間で紹介・口コミ経由で広がっていき、それらに対して「気軽なチャット」という非常に強力なタッチポイントを握ることができるので、次に更に中小企業内でどのように効率的にDX化を促進していけばよいのかを、たとえば「DX顧問」みたいなイメージで事業化していけたら良いなと思っています。なので弊社では昨今「DXアドバイザー」と呼べるような人材をたくさん育成しておりまして、その人たちが中小企業内でITが苦手な方々に対してある一定の信頼を得ながらも、いろんなチャットアプリ以外のSaaSとか商材も含めて提案・伝授させていただくだけでも大きな価値が出てくると思いますし、こういった複合的な活用によってさらに予想を超えたバリューが生み出せるのではないかと。なので、目指すところは「中小企業にとっての CDO(Chief Digital Officer)的な存在になる」というのが、このビジネス版スーパーアプリを目指す世界観のイメージです。単にテクノロジーだけで登ろうとしていないのが、我々の特徴でもありますね。



   「SDGs目標 = 事業KPI」よりHappinessな人口を増やしていくために


2030年のアジェンダに向けての具体的な数字や目標は掲げられていますか?

はい、まず我々としては SDGs に対しての直接的な目標ではなく、前述したとおり、まずは事業を通じてユーザーも拡大し、社会全体の働き方そのものをアップデートすることが、そもそもSDGs のゴールに近づくことだという構想です。その意味でいえば、SDGs目標 = 事業KPI(重要業績評価指標)が、具体的かつ近い将来の目標になっています。様々な投資家からも一番その部分が期待されますし、我々自身も事業が拡大していくことで経済的な収益も生まれ、社会的な意義も果たせるのかなと考えています。

具体的な数字で言いますと、2024年までに中小企業向けのビジネスチャット市場で、40%のシェアを弊社で獲得するという目標に対してコミットしています。事業成長の数字で言えば、2021年から2024年のCAGR(年平均増加率)を40% 成長させるなどの数字感を持って事業に取り組んでいます。ビジネスチャットで働くユーザー数を増やし、よりカジュアルで生産的な働き方ができる人を増やしていくことが、SDGs目標達成そのものにも近づいていることだと思っています。

なるほど、とても分かりやすいお話をありがとうございました。ビジネスチャットが当たり前になる未来が楽しみですね。
  では最後に、全体を通して一言メッセージをお願いいたします。

「資本主義の限界」と言われている時代になり、SDGs や ESG という言葉や視点が生まれ、一定の経済成長や生きるために必要なものは、特に先進国においては揃いつつある中、もはやGDPだけでは測れない社会全体の豊かさや幸せ指数などが求められてきていると思います。そこには物理的な豊かさだけでなく、感情に寄り添った新たな報酬形態であったり、今まだ数値化できないような新たな社会資本と呼ばれているものを増やしていかないと、そもそもの理想的な社会実現は難しい時代に突入したと思っています。数字化されていないだけで、実は経済成長や社会の豊かさ、いわゆる「Happiness」という指標軸は今後ますます増え続けていくと思いますし、我々は事業を通して社会を豊かにしていくという存在だとすれば、GDPや金銭的な成長に加えて、社会資本そのものを増やすということも、使命として帯びてくるのではないかと考えています。

大企業や上場企業だけではなく、スタートアップから中小企業まで、一定の目線で事業をしていくことが今後さらに求められてくると思いますので、今のうちからどんどんと次の時代へ向けた準備をしていくのも、同時に大事なことではないかと思います。AIやロボットが発達していったとき、前もって準備していた企業では、多分失われていく仕事の量がきっと少なく留まるはずなんですよね。実際にはESGやSDGsって、どこか遠い未来のように思われがちですが、「将来へのリスクヘッジ」という部分も踏まえて、各企業・各個人が一定の取り組みを進めていく事は、全ての企業が実行していくべきであると私は思います。

弊社ではビジネスチャットというツール、Share-X社では様々な人たちのリスキリングというものを通じて、社会においてより柔軟性のある人を増やすというところを、今後も一緒に取り組む仲間として共に成長していければと思っています。


本日は大変有意義なインタービューのお時間をいただき、ありがとうございました。
 引き続き、弊社でもこのSDGsについて事業を軸に進めていければと思います!