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英国発アプレンティスシップ(徒弟)型リスキリング「Multiverse」、アメリカ進出はどうなっているのか?市場や環境の背景にも迫る

シェアエックス社のカリフォルニア州サンノゼ在住メンバーフジサカ美和(Miwa) 氏に、アメリカでの最新のリスキリングの状況、特にイギリスから進出した「Multiverse(以下マルチバース)」の現状と市場背景についてリサーチしてもらいました。

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   アメリカが抱えるスキル・ギャップの課題に対して大々的にアピールした「マルチバース」は勢いに乗っている。

中川:若者のリスキリングを支援するサービス「マルチバース」が、このほどイギリスでEdtech初のユニコーン(※)となり、2021年にアメリカに進出しました。本格的にアメリカに進出してからどのようになっているか、現地の状況をシェアしてもらいます。

Miwa:マルチバースは、イギリスで2021年1月に、44million(約44億円)のシリーズBの投資を受けています。この投資を受けたことを皮切りに、アメリカでもローンチしました。そこからアメリカでの快進撃が始まっています。結論から言うと、進出は今のところ成功していると言えそうです。

中川:まずは、アメリカの雇用や労働の状況を教えてください。

Miwa:2019年、アメリカ国内で労働力のスキルギャップがかなり拡大、課題になっていました。アメリカ国内で、720万人以上の求人があるにもかかわらず、その求人を埋めることができていなかったのです。

中川:求人に対するスキルが不足している。

Miwa:はい。また、世界経済フォーラムからは「2028年までにこのギャップを埋めたら、世界のGDPが11.5兆ドル増加する可能性がある」とも発表されていました。つまり、世界中で、このギャップが大きな問題になっていて、どう埋めたらいいのか、より良いソリューションを模索していたのが、2019年ですね。

中川:コロナ前ですね。

Miwa:はい。その後に、コロナ禍で労働者の環境がさらにひどくなったという背景がありました。そこを解決したひとつがマルチバースだったという訳です。

マルチバースは、2021年1月から本格的にアメリカでマーケットの拡大を進めており、3ヶ月後の4月には、ナスダックと連携し大々的にマルチバースの宣伝を開始、大きくシェアをのばし大きいターゲットに売り出しています。


   
マルチバースのユーザー年齢は16~24歳。なぜ限定的?

Miwaアメリカ独自の課題の一つが、Broken college sysytem、つまりアメリカの大学システムがもはや機能していないのではないか、ということです。

例えば、ハイレベルのスキルを身につける必要があるとなった時に、これまでは大学で身につけることが出来るというのが今までの流れでした。しかし、現代ではアメリカの大学を卒業したにも関わらず、就職できていない学生は350万人にものぼるという現実があります。

アメリカは、多くの学生が学費ローンを組んで大学に進学するので、途中で退学するとスキルはつかない上に、学習は途中で終わり、ローンだけが残るという現実が、実はとても多い。

特に、裕福でない層が「スキルをつけて大学を出たら良い職につける」と思って大学に入るのですが、学費を払わないといけない。そのためには仕事(アルバイト)をしないといけないが、仕事をしてると勉強できない。勉強できないと単位が取れないので、進級できないという悪循環を生んでいるのです。

実は、アメリカでは大学を中退する割合が40%とも言われており、およそ2,000万円の借金を抱えたまま大学を辞めてしまっているということになります。

そこでマルチバースは、アメリカのカレッジシステム自体に問題があるね、というところに目をつけたのです。

中川:マルチバースの受講対象者が16〜24歳というのは、そういった背景からか...

Miwa:大学に進学しても、実践の場がないというのが大きな問題ですね。
若者の76%は、自分に最適なキャリアパスを見つけたら大学に行かなくても良いよね、と思っており、今や大学が全てではないよね、という意識があります。しかし、親の世代は、まだまだ良い就職をするためには大学を出た方が良いという意識が高く、世代間での差があると感じます。

マルチバースが、対象者を16~24歳の若者層に絞っているのは、こういう背景による「大学や専門学校のリプレイスの場としての立ち位置・戦略である」ということが分かります。

中川:だからこそ、より経済環境が厳しい人が多いと思われる有色人種層をメインのターゲット層にしているのか、そして無料!

Miwa:マルチバースの中の登録者の56%が有色人種、50%以上女性で、さらに、そのうち34%が経済的に恵まれていないコミュニティ出身です。裕福層は、まだ大学に行けているという現状があるようで、このことから、アメリカの課題にピンポイントにはまっていると考えられますね。

中川:アメリカのIT企業では、リストラが行われている実情も。

Miwa:はい。なのでマルチバースは、モーガンスタンリー、スカイ、グーグル、シスコなど、IT以外の大手企業を取り込んでいます。

アメリカの企業の採用募集では、4年大学卒業という条件がまだ必要です。しかし、結局は大学を出ても実践をする場がなく、就職に十分ではないと多くの学生が感じているという課題もあります。実践する場を提供するというのがマルチバースのやろうとしていることなので、今後採用条件も変わっていくかもしれないですね。

ただ、アメリカの西部・東部は、実践の場に恵まれているので、マルチバース出身者が、カリフォルニアの大学を出た人と、どれくらい戦えるか、は別の問題かもしれません。

しかし、いろんなジャンルの会社があり、どんな業種でも人を求めているので、これから間違いなく伸びるであろうと予測されます。

アメリカは、スキルギャップの問題で人材が足りないので、そこのニーズマッチが期待できますね。