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【前編】リスキリング最前線。米国における Re skilling の全貌とその時代背景

今や日本でも徐々に注目されつつある「Re skilling = リスキリング」。もともとはアメリカからの流れでこの言葉が日本にも入ってきたようですが、従来からあった社内研修やセミナーとは何が違うのか?そもそも本家アメリカではどのような時代背景の中でこのリスキリングが広まってきたのか…?

今回は、米国に在住しながら、当社で主にリサーチャーとして働いている MIWA FUJISAKA 氏に、米国におけるリスキリングの最新情報やその背景について、代表の中川がオンラインインタビューして記事にまとめました。まずはこのMIWAさんのご紹介から!


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   米国におけるリスキリングの歴史。その時代背景と流れについて


まずはじめに、リスキリングはそもそもどこから生まれ、どのように発展していったのでしょうか?

アメリカで今の形の《リスキリング》が出てきたのは、おそらく2000年以降からでしょうか。2016年頃から一般的に言葉として聞くようになってきましたね。遡れば1980年に、失業率を減らすための国策として、企業に対し「ジョブトレーニングをする」というところに国が資金を費やした、という歴史がありました。

ただ、そのトレーニングも政府の思ったような効果に結びつかなかったという経緯もあります。そこから10年後の1990年代になって、アメリカ国内の根底にある、白人と黒人やヒスパニック系などの有色人種との職業格差がさらに広がりを見せたように感じます。1990年頃はインターネットも始まり、急速にテクノロジーが進んできたのですが、企業はデジタル化への対応に伴い、従業員に対するトレーニングも同時に進めていました。しかし、そのトレーニングも白人寄りのデスクワークトレーニングに比重が置かれ、結局、工場や建設関係などをはじめ、ブルーカラー職の人々にとっては、仕事がオートメーションされていくことが、すなわちジョブキラーになっていったということですね。


ブルーカラーは圧倒的に「黒人が多かったから」ということでしょうか?

そうですね、同族人種の日本では起こりにくいことですよね。
元々、やはり人種による環境や教育格差であったりとか、経済格差というものがすでにある状況から、テクノロジーが進むことによってさらに仕事としての格差が人種間でも広がっていきました。

2000年代に入って、社会全体がテクノロジーにキャッチアップしていかなければならないという背景のもと、国は技術的なスキル教育に対する投資を積極的に行うようになりました。最初は「教育機関に対する投資」がメインだったんです。つまり、学校義務教育(小学校~高等学校)の若者に技術スキルを身に着けさせるための予算を増やしていったんです。一方で、2000年頃では、まだ「大人に対する投資」はそれほど積極的には行われていませんでした。そもそも大前提として、学校教育でスキルや技術の底上げをしていこうという部分が大きかったと思います。

ところが、テクノロジーの進む速度が思った以上に速くなってきたことと、子どもたちが実際に仕事に就くまでには時間がかかるということもあり、現時点で企業が必要とする技術力を持った人材が不足しているという現実問題がありました。それと同時に、時代の変化に伴い1980年から2016年までの36年間の間に、すでに600万種の仕事そのものが消えて無くなっていました。仕事自体が無くなったことにより、職を失った人がたくさんいるのに、その人たちがなかなか再雇用されないという問題もありました。そこで、失業者に対する再雇用課題対策として、この《リスキリング》というものがどうやら考え方として出現してきたようです。


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※ 写真はインタビュー当日の様子。Zoomを使ってオンラインでの取材を実施しました。左が代表の中川氏、右が米国在住のMIWA氏。


技術が発達し、オートメーションしていく中で、仕事自体が無くなっていったということなのでしょうか?

そうですね、オートメーションが理由で無くなってきたということと、それに加えて、さらに同じ仕事内容を国内ではなく海外で安価に発注できるところが増えてきたという時代の流れも加味していると思います。例えば、中国やその他のアジア諸国などですかね。いわゆる BPO(Business Process Outsourcing)です。安い所に仕事が流れてしまったことによって、さらに失業率が増えたことで、その大きなインパクトを受けているのが、やはり有色人種です。

有色人種やレイバー(Labor = 労働者)と呼ばれる人たちが、現職がなくなって次の仕事を探すにあたり、やはり自分の技術レベルが足りないというスキルギャップの問題がありました。また、自分のスキルにマッチするマーケットがないため「業界を変更する」必要性も多々出てきました。そのため、既存のスキルは活かせなくなり、新たな職種のスキルを学ぶ必要が出てきたのです。他にも、例えば自分が住んでいる身近な地域から引越しなどをしない限り、その地域にマーケットがない!いうことも理由に、失業率がどんどんと増えていったという背景もあり、なんとかしないといけないよね?というところから《リスキリング》がスタートしていきました。

《リスキリング》というのは、最初はブルーカラーの人たちが、もう一度新しい仕事を見つけるために、今持っている技術だけでは足りない部分を補うためのトレーニングというところから始まっていきました。

そこでキーとなっていたのが、失業問題の裏にある本質的な課題。ブルーカラーのみならず、地域や人種などによる教育機会の不平等性やスキルギャップ、企業が必要とする技術をもった人材不足をなんとか解決しないといけないということです。まだこの時代、国がお金を投資するのが若者層の教育のみだったので、業務に必要な「大人の教育」は、各企業が自ら投資をしていかないといけない という認識に変化していったのが、どうやらこの2016年前後のようです。企業としては、従業員教育を自分達でやらなければという認識自体はありつつも、実際に動かなかったのは、従業員に対して投資して新しいスキルを身に付けたら、せっかく投資したのにそのあとすぐ他所に転職されてしまうのではないかという懸念があったので、なかなかこのリスキリングに対して積極的に踏み込む企業が当時は少なかったんですね。



   2016年から積極的に踏み込むようになった米政府。しかし、投入先は企業ではなく教育機関


では、アメリカでリスキリングに積極的に踏み込むようになったのは、まだ最近のことなのでしょうか?

まさしくそのとおりです。2016年に政府もついに《リスキリング》を推奨するために、アメリカ全50州のうち45州のコミュニティカレッジ(二年制大学)に、3億4800万ドル(日本円で約380億円)をテクニカルトレーニング費用として財源を投入しました。

ここで疑問が上がるのが、「なぜ、2年制のコミュニティカレッジだったのか?」ということです。

アメリカでは、コミュニティカレッジの学費は、4年制大学と比べて比較的安いです。それに加えて、コミュニティカレッジでは入学試験なども無く、主婦でも一般の社会人でも誰もが学びやすい教育機関であるので、リスキリングを必要とする人々が学び直すのにちょうど良い教育機関だったということが主な理由のようです。

日本の場合、学生を卒業した後、社会人になってから再び大学で何かを学ぶということはあまり一般的ではないと思うのですが、アメリカでは普通にコミュニティカレッジで学んでいる社会人や一般の大人もたくさんいます。また、子どもの教育においても、4年制大学に進学するのは入学試験の面でも経済的な面でもハードルが高すぎるが、短期間で就職に役立つ技術やスキルを身につけたいという理由でコミュニティカレッジを選択する場合はよくあります。


教育機関へ投資をするということは、これまでの流れとそこまで大きな差はないですよね?

そうですね、教育機関への投入という意味合いで言えば、そこまで大きな変化はしていないのかもしれません。ですが、これまではいわゆる「子どもたちメインの教育機関への投資」だったのが、具体的なスキルを必要とする「大人に通ずるコミュニティ・カレッジへの投入」という意味では、進歩と言えるのではないでしょうか。

確かに政府としては、企業に従事する大人に対しての投入は、企業に対して多少は行っているようでしたが、大きな予算ははやり教育機関への投入です。

日本も「大人が学ぶ」とか「大人に教育する」ことって、大人だからそもそもそんな必要すらないし、学ぶことは学生のすることでしょっていう文化的な大前提があって、社会人になってしまうと、会社以外での学びを得る機会に対して必要性を感じないということはありますよね。ただ、その裏側にある目前に迫る課題は、技術・テクノロジーの急激な発展によって、職場環境だけでは、仕事に必要なもの一式が学べなくなりつつあるということも、リスキリングの注目度に大きく関係しています。

また、それ以上に深刻なのが「人材不足」です。例えば専門的な知識とスキルが必要な ITエンジニアのような職種の人材不足であったり、また一方で、レイバー層では人自体が余っているのに、企業が必要とするスキルに満たないから再就職できなかったり。そんな
人たちをなんとかしなくてはという課題があります。

あらゆる業界で、テクノロジーの進歩に伴い、従業員が持っている技術やスキルと、企業が現在必要としている “スキルギャップ” がどんどんと大きくなり、もはや企業の人材確保そのものが難しくなってきたということが、昨今の時代背景として大きいですね。



【リスキリング最前線】後編につづく。