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【リスキリング最新情報】企業もリスキリングに参入し始めたアメリカでの具体的な事例

前回の【リスキリング vol.01】米国における Re skilling の全貌とその時代背景  はご覧いただけましたか?今回は時代と共にその必要性に迫られたリスキリングが、教育機関のみならず企業も参入しはじめたお話を、引き続き米国在住MIWAさんにお話を伺います。


   2016年頃から企業でも《リスキリング》を開始。それは大統領選挙との関連が背景にあった

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※ 左の写真は、米政府ホワイトハウスのWEBサイト アーカイブより引用。トランプ氏のスローガンの1つを模したロゴマーク。右はイメージ写真です。


前編の続きになりますが、企業が本格的に《リスキリング》を開始したのは、いつ頃なのでしょうか?

前編でもお話をしていた、仕事を失った人たちに対するリスキリングが、2016年頃に始まりました。その約1年後の2017年にトランプ政権が始まったのですが、2016年はちょうどトランプ氏が選挙キャンペーンをしている時期でした。トランプ氏もそういった労働者 = フロントラインワーカー(Front Line Worker=工場などの現場の最前線で働く労働者)層をかなり意識して選挙活動を進めていたんです。

大統領選挙に勝つために、レイバー層の票を獲得しようと、すでに失業したり再就職先に困っている人など、現社会に不満を持つ人々や近い将来に不安を抱えている人々に向けて「あなたたちを守ります」「私が大統領になった暁には、あなたの仕事を守ります」といった感じで、全面的にエレクションキャンペーンを実施していました。


その頃はまだ《リスキリング》という言葉は出ていなかったのでしょうか?

そうですね、トランプ氏から具体的にその《リスキリング》という言葉が出たかどうかは定かではありませんが、仕事がないという多くの不満を受け止めていたことは確かです。その不満が大きかった層にフォーカスを当てて、”Make America Great Again”(古き良きアメリカに戻そう)というスローガンで、キャンペーンを進めていました。

一方でヒラリー氏は、民主党を中心にリベラル派や女性層の支持を多く集めて勝利に導くという戦略を取っていたのですが、トランプ氏のフロントラインワーカー層の取り込みには勝てず、トランプ氏が勝利をしたという結果になりました。いわゆる “青い州 (民主党支持傾向) ” でも、隠れトランプ派が大勢いたというのは、やはりそういったアメリカにおける労働環境や仕事不足に不満を持つ人々が、トランプ政権に期待をしたんですね。


トランプ氏は大統領になって、国の政策として《リスキリング》の予算は確保したのでしょうか?

リスキリングに限定しているわけではないのですが、2018年に “ CTE Act ”(The Strengthening Career and Technical Education for the 21st Century Act の略)として、21世紀のためのキャリア支援と技術教育の強化という法案に対し、国家予算12億ドル(約1300憶円)を約束するサインをしました。また、トランプ政権は税制改革として法人税を引き下げたんです。それにより、浮いたお金で従業員のトレーニングに投資できるようになった企業も、実際には増えたのではないかと思います。間接的にではありますが、トランプ氏の政策のおかげで《リスキリング》を進めることができた企業も出てきたと言えますね。

そして、多くの企業が年齢の高い従業員に対する《リスキリング》に本格的に投資をし始めたのがこの辺りですね。Walmart がそれより以前の2016年に、一番最初に《リスキリング》を開始しています。




   Walmart社におけるリスキリングの事例

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イメージ写真です。


Walmart社では、具体的にどのような《リスキリング》を実施したのでしょうか?

すでに配信されている過去の記事等には、主に「VR 研修」と記載されていますね。日本でもいくつか参考になる記事がありましたので、下記リンクも併せてご参照ください。

【参考】WWD:米ウォルマートがVRで店舗トレーニング 疑似体験学習で理解度アップ
 → https://www.wwdjapan.com/articles/707996

【参考】リクルートワークス研究所:VRを用いたリスキリングに臨むWalmart
 → https://www.works-i.com/project/dx/reskilling/detail005.html

これについては、次回配信の記事でもう少し掘り下げて調べてみますが、おそらく小売業ならではの物流や倉庫などに課題に関係にあるような気がします。《リスキリング》においては、Walmartは 他の企業に比べて飛び抜けて早く始めていたのは事実です。
同じようなフロントラインワーカー層の多い小売業・e-コマース・物流といった意味ではAmazonが挙がりありますが、Amazonは2019年に取り組みが実施されたので、Walmart が3年ほど早い段階でスタートしたという点では、いかに早く《リスキリング》に取り組み始めたのかがよくわかります。

アメリカでは、たとえば新しい技術を持った人が欲しいなと思った時には、人材そのものの入れ替えを結構行うのが一般的だったんです。新しい人を雇い、今までいた人を解雇するという入れ替えを実施する企業がアメリカには多かったのです。しかし、ちょうどこの頃から、高度な技術をもつ人材が不足しているという状況の中で、企業が求める技術や知識を持った人たちが GAFA(※アメリカのIT企業大手4社の頭文字、Google、Amazon、Facebook、Appleを指す)に流れてしまう傾向があり、Walmart を始めとする IT分野ではない企業にとっては、ハイスキルの欲しい人材を思うように新規雇用することができなくなってきたのです。

そして、2016年当時では、まだ社会全体的にそういった高い技術を持っている人材そのものの絶対数も少ないこともあり、企業としては今いる従業員を教育してアップデートしていかざるをえない状況となりました。まさに人材を「買う・交換する」という意識から、人材を「作る・教育する」という方向に転換してきたことが、このリスキリングが広がっていった一番大きな背景なのではと思います。あとは、コストパフォーマンスが良いということ、雇う側も労働者の成長経験(Employee Experience)を重要視するようなったことも、背景として挙げられます。つまり、企業側の本質的な人材確保という点で「もしもあなたがこの会社に来てくれたら、働きながら自分自身の技術やスキルもアップデートできるチャンスがあります!」というところを売りにし出したということですね。


なるほど。ある意味時代の流れと同時に起こってきた変革なのですね。
では、次回はさらに Walmart社の事例を掘り下げつつ、AT&T、Amazon の事例などもお伺い
できればと思います。


わかりました。さらに調べておきますね!